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目次
LIGHT テート美術館 光 ーターナー、印象派から現代へー
ーターナー、印象派から現代へー
2023.7.12(Wed)-10.2(Mon)
国立新美術館
ごあいさつ
このたび英国・テート美術館の全面的なご協力のもと「テート美術館展 光ーターナー、印象派から現代へ」を開催する運びとなりました。 本展は英国・テート美術館のコレクションより「光」をテーマに作品を厳選し、18世紀末から現代までの約200年間におよぶアーティストたちの創作の軌跡に注目する企画です。本展では絵画、写真、素描、キネティック・アート、インスタレーション、さらに映像等の多様な作品を通じ、異なる時代のアーティストたちがどのように光の特性とその輝きに魅了されたかを検証します。テート美術館の所蔵品によって紡がれる「光の美術史」をお楽しみいただければ幸いです。 最後になりましたが、この展覧会の実現のためにご尽力いただきましたテート美術館のマリア・バルショー館長、ならびに同館職員の皆さまに心より謝意を表します。また本展の開催にあたり、ご協賛、ご協力、ご後援を賜りました関係各位に深く感謝申し上げます。 主催者
メッセージ
光は私たちの日常に溢れているため、存在することが当然であると考えられています。しかし、光の伝達と拡散によって場の雰囲気が作られ、そのことが私たちの感情に作用してはじめて、空間が知覚されるのです。このような光の性質や潜在的に知覚に訴える効果は、数世紀にわたって、人類の科学的、かつ、創造的な探究の主題であり続けてきました。 本展は、触れることのできる光の効果を捉えようとし、時に巧みに表現しようとする過去200年にもわたる芸術家たちの試みに注目します。テート美術館が所蔵する歴史的に重要な英国美術の作品から、国際色豊かな作家たちの作品までをも対象とし、光というテーマをたどっていきます。そして、時代順の展示構成を採用する一方で、歴史的な絵画とともに現代の作品を展示することで、光の性質に対する関心がいかにして時代と国境を越え、偉大なアーティストたちを結びつけたのかを示します。 ロマン主義の画家による卓越した光と影の表現、光の効果を直接カンヴァスに留めることを目指した印象派の絵画、20世紀初頭の実験的な写真作品、そして光そのものを表現手段とする現代のインスタレーション作品に至るまで、本展覧会では、油彩画、水彩画、エッチング、メゾちんと、写真、立体、映像作品など、表現方法の垣根を越えた、テート美術館のコレクションを象徴する110点以上の作品が一堂に会します。 テート美術館を代表し、国立新美術館、大阪中之島美術館、日本経済新聞社の皆さまの意欲的な取り組みと温かいご協力に対し、心より感謝申し上げます。この度、私たちは上述の機関の皆さまと初めて連携する機会に恵まれ、テート美術館のコレクションを皆さまにご覧いただく運びとなりました。この展覧会は、多くの関係者の努力の賜物であり、ご尽力とお力添えに重ねて御礼申し上げます。本店が今後様々な形で展開される協力関係の始まりとなることを願っています。 最後にこの場を借りて、本展の成功に貢献し、テート美術館のコレクションを広めるために尽力してくれた当館のスタッフ全員にも感謝の気持ちを伝えたいと思います。 マリア・バルショー テート美術館館長(博士、大英帝国勲章CBE)
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デイヴィッド・ホックニーは1937年イングランド北部のブラットフォードに生まれ、1964年ロサンゼルスに移住し、アメリカ西海岸の陽光あふれる情景を描いた絵画で一躍脚光を浴びました。現在はフランスのノルマンディーを拠点に精力的に作品を発表しています。2017年には生誕80年を記念した回顧展がテート・ブリテン(ロンドン)、ポンピドゥー・センター(パリ)、メトロポリタン美術館(ニューヨーク)を巡回。ホックニーは現代を代表する最も多才なアーティストのひとりとしてその名を確立しています。
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宗教的な主題を光と闇によって表現した18世紀末のイギリスの画家たち
ユダヤ教とキリスト教の信仰では、神は最初に光を創造したと伝えられています。旧約聖書と新約聖書のなかで光は善と純粋を表し、暗闇は破壊と悪を意味しています。18世紀末から19世紀初めにかけて、イギリスでは宗教を主題とする作品が人気を博していました。芸術家たちは深い精神性を帯びる場面を表現するために光と闇を描き、それらを直接的に、かつ比喩的にも用いる表現を追求したのです。闇の中できらめく光は苦しみの中の希望を示しています。こうした歴史的な作品と同様に、ここでは関連するテーマを扱う現代の作品を紹介します。アニッシュ・カプーア(1954年生まれ)による見る者を包み込むような彫刻では、その内部の深紅の闇と作品の中心から反射する光との間に生まれるコントラストが重要な要素となっているのです。
UBARTH
立派なエントランス。中も広いです。
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室内におけるささやかな光の表現が世界を知覚するその方法をほのかに照らす
ヴィルヘルム・ハマスホイ(1864-1916年)は、日常生活を詳細に記録した落ち着きのある肖像画と精神性漂う室内画で知られています。ウィリアム・ローゼンスタインも同様に家庭内の様子を主題とし、家族や友人の肖像画では、人物と同様、周囲の空間も念入りに描写しています。ローゼンスタインが描いた人物の髪や肌、さらには服を照らす光、そして、ハマスホイの作品における室内の壁や床に差し込む光は、二人の画家が光を正確に描写することに細心の注意を払っていたことを示しています。
自然を理想化するのではなく忠実に表現することを目指したコンスタンブルは、風景画に革新をもたらした画家と見なされています。自然の中で油彩の下絵を描き、それをのちにアトリエでの制作に反映させました。本作品はイングランド南東部のエセックス州ハリッジの港で描いた下絵が元になっています。頭上の雲が陸地に落とす暗い影と、明るい陽光を浴びる灯台の様子が光と影の見事な対比を生んでいます。また、コンスタンブルは白い絵具を散らすことによって水面の光のきらめきを表現する特徴的な手法をしばしば用いました。
バーン=ジョーンズは、絵画のみならずデザインの分野でも活躍した芸術家です。20年以上かけて制作されたこの作品は、完成まで至った最後の代表作と言われています。キリスト教における天使や典型的な愛の神であるキューピッドの姿をした愛の化身が、巡礼者を孤独と闇から救い出す場面が描かれています。制作にあたり、画家は中世フランスの詩『薔薇物語』から着想を得たと言われています。この物語は14世紀にイギリスの詩人ジェフリー・チョーサーが英語に翻訳しました。鳥に囲まれた天使の羽は、巡礼者の解放と自由を象徴し、愛に導かれた巡礼者は光に照らされているのです。
ジョン・エヴァレット・ミレイ、ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティと共にラファエル前派兄弟団を結成したハントは、1850年代以降聖地エルサレムを度々訪れるようになりました。本作品は、1870年代に同地に滞在する中で構想されました。ここで描かれているのは、キリスト降誕を恐れたヘロデ王が2歳以下の男児を殺す勅令を出したことを知ったヨセフ、マリア、そして幼子イエスがエジプトに逃げようとする場面です。当初ハントは聖家族のみ描こうと考えていましたが、虐殺された幼児たちの魂が天国に旅立つ姿を加えました。殉職者となった幼児たちは天からの光を浴びたように輝き、ハントが神の救済の力を表現しようとしたことがうかがえます。
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自然界へ強い関心を抱いた19世紀後半のヨーロッパの画家たち、技術や社会の急激な変化へ反応を示す
ジョン・ブレット(1831-1902年)は、光の効果とその感情に訴える本質を絵画で表現した画家の一人です。海面を照らす太陽光の緻密な描写は、19世紀の中頃にラファエル前派が提唱した考えに基づいています。 フランスの印象派たちは光そのものを絵の主題としました。クロード・モネ(1840-1926年)、カミーユ・ピサロ(1830-1903年)、アルフレッド・シスレー(1839-99年)らは、戸外で制作するために思い切って地方へと足を延しました。彼らは、光、大気、そして動きのつかの間の変化をカンヴァスに留めるために自然の中で制作したのです。多くの風景画家たちが戸外でスケッチをした後にアトリエでの入念な作業に取り組んでいた時代に、印象派たちの制作方法は当時としては珍しいものでした。印象派は遠近法に基づく三次元的な空間を表象せず、絵具の物質性を強調して平面的な画面を構成し、さらに、対象を大胆に切断したかのようなイメージを作り上げたのです。 印象派が活動したのは1860年から1900年の間でしたが、その革新的なアプローチは20世紀のヨーロッパと北米の画家たちも魅了しました。フィリップ・ウィルソン・スティーア(1860-1942年)とアルマン・ギヨマン(1841-1927年)らは印象派に関わり、その様式を発展させました。二人の画家は、自然の中での光の効果を捉え、表現しようとしたのです。
イギリス出身のブレッドは、初期には明るく繊細な風景画の名手として名を馳せました。ラファエル前派とも交流を持ち、宗教的なモチーフを作品に取り入れていました。その後自身の航海の経験を活かし、海や海岸などなじみ深い主題に取り組むようになります。ブレットは1870年の夏に大型のスクーナー船「ヴァイキング号」でイングランド南西の沿岸を航海し、本作品はその際に記録した詳細な情報やスケッチを元に描かれました。ブレットは画家であると同時に天文学者でもあり、科学的な観点を持って対象にアプローチしました。
アメリカで生まれたホイッスラーは、ロンドンとパリを主な拠点として活躍した画家です。「シンフォニー」や「ノクターン」といった音楽用語を作品名に取り入れ絵画によって教訓や物語を伝えることよりも、色と形の調和を重視しました。本作品では、スペインと南米との間に起きた戦争(1865-79年)の舞台tなったチリの港町バルパライソの海辺の風景を描いています。ホイッスラーは穏やかな海と船を照らす薄暗い光を表現するため、青、緑、灰色の淡い色調を用いています。こうした点からは、画家が細部を伝えるよりも全体の印象を作り出すことを好んだことがうかがえます。
フランスの印象派を代表とするモネは、自然を直接観察することによって、光が風景に与える影響とその変化を捉えようとしました。また、モネは異なる光の条件下で同じ主題をなん度も描き、時間の経過をカンヴァスに留めました。本作品はエプト川に沿って並ぶ高い木々の列を描いた23点から成る連作のうちの一つであり、制作時の勢いを残している点で画家が最も気に入っていた作品と言われています。モネはシリーズ完成前にこの並木が伐採されると聞き、自ら費用を負担して残してもらったと言われています。
19世紀半ばのイギリスでは、イタリア・ルネサンスの画家ラファエロ・サンティを規範とする当時の美術教育の方針に異を唱え、中世の美術に回帰し、自然に目を向け用とする若い芸術家たちが登場しました。ミレイはラファエル前派兄弟団を結成した一人で、光の緻密な表現に取り組みました。後年、より自由な表現を追求するようになったミレイは、本作品を制作するにあたり「木の霊が放つ力強い声」に着想を得たと言われています。朝露に当たる光が反射して露が立ち込める神秘的な風景画は、スコットランドの自然の光を捉えようとした晩年のミレイの新たな試みを示しています。
室内におけるささやかな光の表現が世界を知覚するその方法をほのかに照らす
ヴィルヘルム・ハマスホイ(1864-1916年)は、日常生活を詳細に記録した落ち着きのある肖像画と精神性漂う室内画で知られています。ウィリアム・ローゼンスタインも同様に家庭内の様子を主題とし、家族や友人の肖像画では、人物と同様、周囲の空間も念入りに描写しています。ローゼンスタインが描いた人物の髪や肌、さらには服を照らす光、そして、ハマスホイの作品における室内の壁や床に差し込む光は、二人の画家が光を正確に描写することに細心の注意を払っていたことを示しています。
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コペンハーゲン(デンマーク)にあったハマスホイの自宅の一室を描いた作品です。ハマスホイは17世紀に建てられたというこの家の室内風景を60回以上描いていますが、本作品のように妻・イーダをモデルにした人物が描かれることもありました。壁やドア、調度品に映る光と影の効果で部屋はより立体感のある空間となっています。本作品ではもともと丸い木のテーブルが前景の大部分を占めていましたが、後に再構成し、人物が最後に加えられたと言われています。柔らかな光と物思いにふけるような女性の姿が画面に静寂感を与えています。
光と動きの印象を作り上げる様々な方法に取り組む芸術家たち
ワシリー・カンディンスキー(1866-1944)は、現実世界の表象から解放され、音楽のように鑑賞者の感覚に訴える芸術を追求しました。画家は色を、動きの感覚を作り上げるための本質的な要素と考えたのです。こうした考え方は、ペー・ホワイト(1963年生まれ)の吊り下げるタイプのインスタレーション《ぶら下がったかけら》にも認められます。ホワイトはこの作品について「抑制された動きの探究」であると説明しています。 ブリジット・ライリー(1931年生まれ)は、知覚の本質を追求するために幾何学的な形体と色彩を用いました。ライリーは、異なる色調の使用を「テンポ」を変えるものだと考え、色の組み合わせによって影を生み出し、それを「形の動きの構造に抗う」ものと考えました。1993年に制作した《ナタラージャ》では、多くの腕を持ち、宇宙の踊り手として描かれてきたヒンドゥ教のシヴァ神をイメージしています。
ドイツの作家リヒターにとって、光は中心的なテーマです。リヒターは1960年代に写真のイメージを絵画で描き移した「フォト・ペインティング」を発表し、注目を集めるようになりました。1970年代以降は、木製の持ち手を付けた自作のスキージ(へら)を使用して、絵画を広げ、削り取る抽象的絵画にも取り組みます。2枚のカンヴァスをつなぎ合わせた本作品では、分厚い絵画の層の間から画家がそれ以前に描いたイメージがぼんやりと見えます。ぼやけた効果は、光の反射を暗示しているかのようです。リヒターは、抽象絵画を「見ることも記述することもできないが、存在していると結論づけられる現実を視覚化する」ものと考えています。
光の再構成 ー様々な色同士の関係の探究
ピーター・セッジリー(1930年生まれ)は、色付き照明が絵画面と反応する作品を制作しました。スプレーを用いて色をつけた画面では、様々な色が同心円状に重なり、そこに向かって複数の色が交互に切り替わる照明が当てられます。これにより、作品の色彩が劇的に変化し、動いているかのような錯覚を観客に与えることができるのです。 キャサリン・ヤース(1963年生まれ)は、被写体の明暗がそのまま再現される「ポジ」にそれが逆転して現れる「ネガ」の画像を重ね合わせることで、色彩の関係、および光と影を反転させます。ヤースは、ポジとネガの間に生まれる差異を観客が隙間、あるいは何もない空間として捉えることを意図しているのです。 ダン・フレヴィン(1933−96年)は、1963年に蛍光灯を用いた光の彫刻やインスタレーション作品を制作し始めました。崇高で精神的なものを連想させるのではなく、光が日常的なものであることをはっきりと示したのです。 オラファー・エイリアン(1967年生まれ)もまた、観客が色の心理的影響や周囲と関係する可能性を探究して、光によって色を知覚できるように働きかけます。モナイ=ナジの動く彫刻やジェームズ・タレル(1943年生まれ)の色彩が空間を満たす投入型の作品は、こうしたエリアソンのインスタレーションの特徴を先取りしていたと考えられます。
宇宙の広がりと儚さ、その中で私たちの居場所を探る方法としての光
アイスランド系デンマーク人のオラファー・エイリアン(1967年生まれ)は、特定の環境下での光と色がどのように知覚されるのかを考察している作家です。《星くずの素粒子》は、天井から吊るされた大きな多面体の作品で、スチール製の枠の中に反射ガラスがはめ込まれてています。半透明の作品はミラーボールのように回転して輝き、その光は拡大された星くずの素粒子、もしくは爆発した星の残骸のような模様を壁に映し出します。スポットライトは作品を照らし、展示室内やそこを通り過ぎる観客に複雑で幾何学的な影を落とすのです。
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UBARTH
本日も最後までご愛読ありがとうございました。あなたの幸せ願っています。
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