キューバの現代アートシーンにおける新星の一人として高く評価されるマベルは、ミクストメディア、写真、ビデオ、キネティックアート、パフォーマンスなど、多彩な技法・手段を用いて創作してきました。写真、折り紙、鏡などの断片的な素材から緻密に創り上げられるその作品は、フィデルカストロ政権下のキューバで育った若い世代のアイデンティティや、世界とのつながりといった、彼女自身の経験に基づくもので、作品を通してキューバ社会と今日の世界を語ることで、観る者に疑問を投げかけています。国内初となる本展では島国キューバに生まれたマベルにとっても重要な要素である「海、水」をテーマにした作品群を紹介します。

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目次
海を渡る
”バルセロス”。この言葉を知る人はどれほどいるのでしょうか。 ”バルセロス”は、フィデル カストロの島、つまりキューバと葉巻タバコの歴史や文化をもつ米国フロリダ州と隔てる145kmの海域を、家族とともに命がけで渡るキューバ版ボートピープルを意味します。 ”バルセロス”は、困窮から抜け出そうと黄金郷を目指し、言い換えるならアメリカン・ドリームやドル紙幣を求めて、あるいは自分たちよりも先にー場合によっては、あの最高指導者が権力を掌握した60年前にまで遡るのですがー運良く逃れることができた遠い親戚との再会を果たすために、心許ない小船に乗って危険な航海に挑む人々です。 しかし、彼らの多くは船が転覆して溺れてしまい、目的の地に辿り着くことができません。海に呪われ、見捨てられた者たち、そして移民たちにとって全ての海がそうであるように、この海もまた超えることが困難な波濤であると言えるでしょう。 米国が制裁や規制を強化する一方で、この数ヶ月だけでも23万人近くがキューバを出国したと報じられています。例えば、首都ハバナ近郊の漁村にかつて30隻あった船が、今ではわずか6隻しか残っていません。ほかの船はみな、この地から出ていってしまったのです。 いったいどれほどの人が、無事に陸へ辿り着けたでしょうか? いったいどれほどの人が命を落としたでしょうか? マベル ポプレット。この繊細で内気な若きアーティストは、自らの写真、芸術によって、別の人生を求めて危険な旅へと乗り出す同胞たちに力強いオマージュを捧げます。詩情を用いて作品を表現しながら、海を渡る行為の厳しい現実を痛切に考察しているのです。 それゆえに、彼女の作品には”水”がいたるところに登場します。やさしく迎え入れる水、運びゆく水、希望の水、幾多の太陽と夢に煌めく水。または、すべてを呑み込む水、溺れさせる水、弔いの水、そして別れの水。 波や、光の反射と煌めき、陽光、そして底知れぬ深い闇を写し出すマベルの写真は、ときには花びらの形に切り取られ、またときには折り紙のように折られています。まるで、旅立つ人の無事を祈って、もしくは消息を絶った者を偲んで海に投げ入れられる花のように。 私たちの迷路のような思考の奥深くに潜む閃光、刹那の輝き、散乱する破片から再構成されるマベルの作品は、浮遊し、分裂し、回析した記憶に対する賛歌でもあります。 マベルは穏やかで揺るぎのない確信に依って立つものの、決して承認することも非難することもなく、また基本的に彼女のメッセージに政治的な意図はありません。ただ心の奥底で感じていることを、そして祖国を信じながら、波のように往来する同胞たちの離郷や移住を表現しているだけなのです。 しかし、人々のつまらない打算を超えて普遍的なメッセージを伝えることこそが、まさに芸術の力であると言えるのではないでしょうか。 2022年12月19日ハバナにて リシャール コラス シャネル合同会社 会長

マベル ポブレット展
WHERE OCEANS MEET MABEL POBLET Exhibition
【会期】 2023 3.1-4.2
【会場】 シャネル・ネクサス・ホール
中央区銀座3−5−3シャネル銀座ビルディング4F
【見料等】 会期中無休・入場無料・予約不要
【アクセス】 東京メトロ銀座駅A13出口/銀座1丁目8番出口からすぐ

展覧会に寄せて
「WHERE OCEANS MEET」展は、マベル ポブレットが心に抱き続けてきた大切なテーマである”水”、そして”海”を、さまざまな表現を通して感じることのできる展覧会です。”水”はキューバと日本の共通点であり、”海”と共存する島国ならではの文化的独自性を示しています。 海は私たちを隔てると同時に、結びつけ、より親密にしてくれる要素でもあります。文化的・政治的な事情によって個々の体験は異なりますが、島に生きる人々が旅をするとき、彼らを運ぶのが海であることに変わりはありません。例えば、現代のキューバ社会において移民はごく普通の現象であり、マベル ポブレットの作品でも重要な位置を占めています。この現象と、時には救い、また時には災いをもたらす海の本質的な役割について、彼女は良し悪しを判断することなく、観察し、語り、問いかけるのです。出品作の一つ《NON-DUALITY(非二元論)(2022)は、この意味の多義性を反映しています。青いキャンバスにピン留めされた何百もの小さなプラスチック製の花は、吉兆を期待して海に捧げる無数の供物のようであり、また一方で、航海を終えることなく命を落とした者たちを追悼して水面に投げ込まれた花輪のようでもあります。 経験や人生の道筋は人それぞれでも、存在そのものの儚さは誰にとっても同じです。ポプレットは人生を、建設的および破壊的な段階と、さらに不可避の空間期間を伴うサイクルとして捉えています。《EPHEMEAL》(2022)や〈Travel Diary〉(2022)シリーズの作品では、断片化されたイメージの連結・統合によって新しい表現が生み出され、私たちが経験する絶え間ない変化が示されています。 「WHERE OCEANS MEET」展は、自身の見方を変え、別の視点を持つ機会へと観る人を誘います。インスタレーション作品《ISLAS》(2022)は、鏡と写真の断片を繋げて吊るされた糸の中を歩くことで心癒される投入体験の場として制作されています。鑑賞者はここで、作家が語る物語に自身を重ね、共感することもあれば、あるいは自分の物語に引き込まれることもあるでしょう。 フランスの作家マルセル プルーストは、20世紀を代表する長編小説『失われた時を求めて』の中で「真の発見の旅とは、新しい景色を探すことではない。新たな目で見ることなのだ。」と書かれています。本展覧会でマベル ポブレットが鑑賞者を誘うのはまさにそのような旅であり、世界や人類の普遍性をより深く理解しようとする心の航海がここから始まるのです。 クロエ トリヴェーリーニ Island Culture Project 創設者 「WHERE OCEANS MEET」展キュレーター

Biography
マベル・ポブレット[アーティスト]

1986年キューバ・シエンフエゴス生まれ。キューバの現代アート・シーンにおける新星の一人として高く評価される彼女は、ミクストメディアおよび、写真やビデオ、キネティックアート、パフォーマンス、パブリックアートなど、多彩な技法・手段を用いて創作してきた。また、ポブレットの作品はフィデル カストロ政権下のキューバで育った若い女性としてのアイデンティティや、より一般的には世界との関係といった、彼女の人生経験と直接的に関係している。37歳にしてはすでに世界の主要な芸術祭に参加、各国で開催した個展は20以上を数え、また150以上のグループ展に出品してきた。2017年には、57回ヴィネチア・ビエンナーレのキューバ館でインスタレーション作品《SCALE OF VALUES》(〈Homeland〉シリーズより)を展示している。 彼女の作品はタンパ美術館やフォンタナルス=シスネロス美術財団(CIFO)、ラテンアメリカ美術館(MOLA)、およびクライスラー美術館等に所蔵されているほか、最近ではパブリックアート作品《GENESIS》が米国ノースカロライナ州のスティーブンタンガー舞台芸術センターに落成した。

CHANEL NEXUS HALL(銀座)に行ってみよう!
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東京メトロ銀座駅からすぐ!CANALビル発見!
・東京メトロ銀座駅A13出口より徒歩1分 ・東京メトロ銀座一丁目駅8番出口よりすぐ

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入り口を通り過ぎ右前のブルガリの建物を見ながらCANELの建物を左折。



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数m歩くとガラス戸の入り口が見えます。(風景に馴染んでいるので見落とし注意)

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優しい店員さんの指示でエレベーターで美術ホールまで登ります。

































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UBARTH
材料やパーツ、色塗りまで全ての工程を彼女が手がけます。
こんなアート作品初めてじゃー。まして、そこに込められた作者の思いを聞いて少しジーンとしてしまった。ありがとうマベル!!

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本日も最後までご愛読ありがとうございました。
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