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重力と反転、ミクロとマクロ
立石大河亞、イン・シゥジェン(尹秀珍)、岩崎貴宏、金氏徹平 展
2022.2.18(金)~ 5.29(日)
出展作家
- 立石大河亞
- イン・シゥジェン(尹秀珍)
- 岩崎貴宏
- 金氏徹平
ごあいさつ
最新の化学がもたらす知見やテクノロジーの進歩によって、昨今の空間認識、世界観は変化しています。例えば重力の塊であるブラックホールなどをはじめ、宇宙における時間と空間は地球上のように一定ではないこと、宇宙は一つではないかもしれないこと、また数多く発見された太陽系惑星で生命が存在する可能性があることが、ニュースなどでも取り上げられています。また宇宙的な視座に立てば、私たちがミクロやマクロと呼ぶものも、私たちのスケールに合わせたものの見方でしかありません。さらには、コロナ禍の影響によってオンライン上のコミュニケーションが拡大した現在、「今、ここで、同じ空間にいる」という認識もかなり変化したと言えるのではないでしょうか?
本展では、こうした地球上の重力、時間、空間、スケール感から解放され、自由な視点で表現された作品群を展示します。立石大河亞の、重力が反転したかのような高速道路と宇宙を背景にした富士山《富士ハイウェイ》、ミクロとマクロの世界が混在する《ミクロ富士》、岩崎貴宏の重力の方向に反転して上下対象になった金閣寺《Reflection Model》、金氏徹平が描く様々なものがあふれ出す謎の《タワー》、イン・シゥジェンのスーツケースに入った小さな東京《ポータブル・シティー東京》。これらは、私たちの世界が水平ではなく、さまざまなスケールや幾つもの次元で構成され、ミクロとマクロの世界が繋がっていることを提示してくれるかのようです。 主催:森美術館 企画:椿 玲子(森美術館キュレーター)
立石大河亞
1941年福岡県田川市生まれ、1998年千葉県没。
立石大河亞は、絵画、彫刻、イラスト、マンガ、絵本などのジャンルを縦横無尽に横断する独創的な世界を作り上げたことで知られています。筑豊の炭坑地域(現在の福岡県田川市)で生まれ育ち、1961年に武蔵野美術短期大学芸能デザイン専攻への進学を機に上京。1963年の「読売アンデパンダン展」に、玩具や流木を貼りつけたコラージュ絵画作品《共同社会》を発表し話題となり、翌1964年には中村宏と「観光芸術研究所」を結成します(1966年にかいさん)。社会のアイコン的イメージを寄せ集めた独特の世界は、日本ポップアートの先例とも言えるでしょう。1965年からは漫画も書き始め、「タイガー立石」のペンネームで雑誌や新聞に掲載するも、人気作家となり多忙になってしまったためイタリアへ移住します。1969〜1982年はミラノに居住し、オリベッティ社のエットレ・ソットサス工業デザイン研究所に在籍した時期(1971〜74年)もありました。さらに、当時、マルセル・デュシャン、アンディ・ウォーホールからエド・ルシェまで一流の作家を扱っていたイオラス画廊のヨーロッパ各地にあったギャラリーで古典を開催しています。1982年に帰国、1985年から千葉県を拠点に、1990年以降は、絵画や陶彫作品を「立石大河亞」、マンガや絵本を「タイガー立石」の名義で発表しました。
《ミクロ富士》では、様々な角度と高度から観た富士山が描かれ、一番下の画面では、宇宙の中にある富士山を背景に庵の中で箱庭を眺める羽織袴姿の人物が描き込まれています。その人物が見入っているのは箱庭で、そこには同様に富士山と松と小さないおりがあり、その庵の中では同じ格好の人物が箱庭を眺めているようです。そして、その小さな人物が眺める箱庭の中にはまた富士山と庵があり、マクロとミクロの世界が繋がっているような構図が繰り返されていくことが想定できます。
一方、《富士ハイウェイ》では、いくつもの銀河を内包する宇宙と巨大な富士山を背景に、高速道路が一直線に走る田園風景が地面ごと上下反転した形で描かれています。中世の西欧で信じられていた地球平面説を部分的に再現したかのように平らな地面は、富士山の手前で向こう側に折れ曲がっているようです。不可思議な光景ですが、宇宙の中では私たちが日常的に使っている上下は存在しませんので、こうした風景も全く荒唐無稽ではないかもしれません。
このように、立石の作品には日常や歴史的事象から、文明を超えた地球史的、もしくは宇宙史的な、巨視的な時空が積み重なるようにして描かれています。それらの作品は、視点を変えるだけで、ミクロとマクロの世界が繋がり、裏と表は一体となり、内と外、上と下は逆にもなりえることなどを提示し、私たちの凝り固まった世界観を柔らかく解きほぐしてくれるのです。
岩崎貴宏
1974年広島県生まれ、同地在住。
岩崎貴宏は、歯ブラシ、タオル、文庫本のしおり、ダクトテープといった素材でインスタレーションやオブジェを作り、日用品で詩的な風景を作り出すことで知られています。また、「リフレクション・シリーズ」では、地上の実像と水面に映る鏡像が対称となった金閣寺、銀閣寺、瑠璃光寺、平等院鳳凰堂といった日本の歴史的建造物が、ヒノキで精巧に再現され、新しい姿として蘇ります。こうした作品群は、見慣れたものが全く別種のものや異質なものに変化しているという驚きによって、私たちの凝り固まった視点を解きほぐしてくれるのです。これらの作品が生まれた背景には、岩崎の出身地であり、居住地でもある広島市が、原子爆弾によって一瞬にして壊滅した後に再建された都市であること、また戦時中の軍事都市から戦後復興期には平和都市へと180度転換したことなどが影響しているそうです。
本作は「リフレクション・シリーズ」の最初期のもので、京都の観光名所である金閣寺を、その水面にうつる鏡像ごとヒノキで精巧に再現したものです。縦の方向に反転し上下対象となった金閣寺は、地上の重力からは自由にも見えます。戦後に再建された広島市内で生まれ育った岩崎にとって、旅行で訪れた京都は「こんなに古いまま、1000年も保存されている都市があるのだ」という驚きに満ちていたそうです。そうした驚きは、この上下双方向に働く不思議な重力となって現れているのかもしれません。
金氏徹平
1978年京都府生まれ、同地在住。
金氏徹平は、日用品から、流木、石、雑誌やポスターの切り抜き、フィギュア、おもちゃ、除雪トラクターまで、多様な素材を縦横無尽に組み合わせたコラージュ的な手法で知られています。それらの作品群は、現代社会におけるものや情報の大量生産と流通が生み出す流動的な社会のあり方を表現しているといえます。絵画、プリント、写真、彫刻、インスタレーション、映像、装丁、舞台美術、演劇、パフォーマンスなど、作品形態は滝にわたり、近年では特に舞台美術や演劇など、積極的に他社とのコラボレーションを展開しています。
本作は、2009年に製作され、後の舞台作品《タワー(シアター)》(2017年)や《タワー(アリーナ)》(2018年)の原型だといえます。タワーの屋上からは煙がもくもく立ち上がり、また各所にある穴からは、不可思議なスケールの様々なモノが排出されます。穴から出てくる様々なモノとタワーは一体となって、一つの生命体、あるいは多数の生きものの集合となって現出します。本作は、権力の象徴ともいえる直立する構造と、そうした構造では欠陥となり得るものの、様々なモノを生み出す創造力ともなりえる穴についても考えさせるのです。
イン・シゥジェン
1963年中国、北京生まれ、同地在住。
中国を代表する女性アーティストであるイン・シゥジェンは、1989年に北京の首都師範大学を卒業後、1990年初頭から作家活動を開始しました。インは古着や使い古された布、使用済みの日常品を素材としたオブジェや大型のインスタレーションで知られていますが、絵画やドローイングも制作しています。20世紀後半に世界的な近代化と都市化が中国の生活様式を急速に変化させていく中で、インは大量の日常品でできた作品を通して個人や集団の記憶、あるいは記憶の集積としての歴史を伝えようとしているのです。例えば初期の作品《ドレス・ボックス》(1995年)h、幼少期から成人するまでのイン本人の服を父親が作ったトランクに折り畳んで重ね、そこにコンクリートに流し込み、洋服を記憶そのものとして固定・保存したものです。その後、代表作として知られている「スーツケース」シリーズ(2000-2002年)、スーツケースの中に世界各地の都市が模型として再現された「ポータブル・シティ」シリーズ(2001年〜現在)を発表してきました。近年ではインスタレーションやセラミックの作品も制作しています。
UBARTH
なんか空間が気持ちよかった〜
コリコリに固まった固定概念から自由になれたからじゃろ〜
ご意見番
本日も最後までご愛読ありがとうございました。
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